阿波女あきんど大賞受賞者インタビュー VOL.3
阿波女あきんど大賞とは、徳島の地域経済の活性化と女性の社会進出を支援するため、徳島市が各業界を代表する女性経営者とともに結成した「阿波女あきんど塾」が、阿波女の知恵と活力をいかし、徳島の経済活性化のため、活発に経済活動に取り組み、挑戦し続け、活躍している女性を応援する事業です。
女性の視点でプロジェクトの推進、商品開発等に取り組む経営者を表彰する「経営者部門」、女性が働きやすい職場環境の整備を行い、継続した意識改革を自社に対して働きかけている個人やグループを表彰する「個人・グループ部門」の2つを募集・審査しました。
令和6年度はSDGsが目指す「誰一人取り残さない社会」の実現に向けて取り組む2人の女性が表彰されました。
どんな場所に生まれても
その子らしい社会的自立が叶うよう、
夢の伴走者でありたい
「生まれた場所や育った環境に関係なく、すべての子どもが地域との繋がりの中で自分らしく人生を描いてほしい」。その思いをカタチにしようと一般社団法人『うみのこてらす』を立ち上げ、生まれ育った牟岐町を拠点に活動する川邊笑さん。学校に行きづらい子どもを対象にしたフリースペース「われもこう」や、中高生の学習支援を行う「ゆあぷれ」、子ども食堂「てらす食堂」など、子どもと地域がつながり作りに尽力する川邊さんにお話を伺いました。
子どもたちの成長に触れ、
『うみのこてらす』を設立
-------活動を始めたのは2020年9月。筑波大学在学中だったんですね。
川邊さん そうですね。大学4年生のとき(2023年)に法人化し、2024年3月に卒業して4月からそのまま団体を運営しています。
-------学生時代の活動は卒業などのタイミングで辞めてしまう人も多いですが、継続を決意されたのはなぜでしょうか?
川邊さん 活動していく中で、子どもたちの成長していく瞬間に立ち会えたことが大きいですね。
-------この活動をはじめたきっかけは?
川邊さん もともと関東のNPOで3年間、学習支援インターンとして活動していたので、徳島でもできたらいいな、子どもたちのために何かできることがあったらいいな・・・という気軽な気持ちで始めました。コロナ禍で大学へ行けなくなったので牟岐へ帰ってきて、徳島でも活動を始めました。
活動するうちに徳島に限らず、地方における教育格差の問題と向き合い、本人以外の理由で人生を諦めてしまう子どもたちをなくしたいと考えるようになりました。
-------なるほど。
川邊さん 最初は目の前の子だけに向いていた思いが、他の地域にも活動の輪を広げていきたいという夢に変わり、そうなるとボランティアや副業ではできないなという気持ちが芽生え、この活動に集中しようと思いました。
-------活動資金はどうしているんですか?
川邊さん ご寄付と民間企業や財団からの助成金をメインにしています。行政からの助成金などはなく、ホームページから寄付を募っています。
子どもたちを取り巻く地方の現状
-------子どもたちの様子から川邊さんが感じていることは?
川邊さん もちろん、一概には言えませんが、基本的にはみんな手厚いサポートを受けながら育っていると思います。しかし人口減や過疎化による、人数が少ないがゆえのしんどさもあって。
例えば1クラス15人で、半分が女子だったとして8人。その8人は保育園、小学校、中学校とずっと一緒。クラスの友達は部活の友達だし、塾の友達。そこでもし馴染めなければ、他に行き場がなくなってしまう。都会の学校のように1クラス40人で何クラスもあって、クラス替えがあって、いろんな友達やグループがあって…というわけではなく、部活の友達が別にいるわけでもない。
地方はコミュニティが狭いので、そこで馴染めなかったときに選択肢が少なくなってしまいやすい。それでもし学校へ行かなくなった場合、行政が運営する「教育支援センター」(不登校状態にある児童生徒の学校復帰を支援する機関)は徳島市や阿南市には設置されていますが、海部郡にはなくて。
-------人口減少によって人との繋がりが希薄になり、子どもたちの選択肢も限られてきていると。
川邊さん そうですね。部活も限られていて、文化部が少ない学校もあります。そうなると、どんどん子どもたちが活躍できる場や他から認めてもらえる環境が失われてしまう。地方はお兄さん、お姉さん、おじいちゃん、おばあちゃんたちが、助け合いながら暮らしているイメージがあると思いますが、昔と比べると子どもたちと地域の接点は減っています。
子どもたちを地域で一緒になってサポートしていける場所があれば、そこをハブ(中核)としていろんな人と出会えたり、繋がったりして、その中に学校に行きづらい子、生きづらさを感じている子など、いろんな子たちが含まれていたらいいなと思っています。地域との接点をもう一度繋ぎ直すことで、子どもたちの居場所を確保していきたいと考えています。
子どもたちの声に耳を澄ませ、新たな事業を展開
-------そういう思いからフリースペースの「ゆあぷれ」「われもこう」やこども食堂「てらす食堂」をはじめられたんですね。
川邊さん そうですね。私たちはこうした活動を「小規模多機能型の居場所」と言っていて、もともとは中高生を対象にした「ゆあぷれ」から始まったんです。大人にとっての居酒屋みたいに、子どもにもほっと息抜きができる場所があればなと。そこには大学生や地域の大人もいて、普段は会わないような人たちと出会える場所にしたくて、日曜日に開所しています。
-------子どもにとっての居酒屋的な場所という発想は面白いですね。
川邊さん はい。でも1年ほど経って、誰でも立ち寄れる場所だと、「今、しんどい思いをしていて学校や家にいづらい子たちが来にくい」という課題が出てきて。そこで学校を中退した子や学校に行きづらくて平日家にいる子たちの居場所「われもこう」を始めました。
-------課題に応じた居場所づくりをされているんですね。
川邊さん そうですね。「ゆあぷれ」や「われもこう」のどちらにも来づらいという子たちもいるので、「ホームフレンド事業」というものを立ち上げ、不登校やひきこもり、距離の問題で通えないなどで家にずっといるお子さんには訪問支援や食料配布も行なっています。こうした活動を通じて、私たちが作った居場所の中だけではなく、温かい眼差しを向けてくれる大人が増えれば、誰も孤立せず、地域で安心して生活ができるのではと考え、子どもたちと理解ある地域の人たちを繋げる場として、「てらす食堂」を月に1回開催しています。
-------不登校やひきこもりの子どもたちへのサポートはセンシティブな部分もあると思います。
川邊さん そうですね。退職された学校の先生や心理士の方などにアドバイザーとして団体に入っていただき、助言をいただきながら進めています。
-------活動をされていて、今一番、課題となっているのは何でしょうか?
川邊さん 学校や関連機関との連携はだいぶできているんですが、個人情報の問題もあり、早期からの連携体制、繋がってきたあとの社会参画までの連携は伸び代がまだある部分です。
学校や行政と一緒になって支援の輪を広げ、連携体制をより強化なものにしていきたいと今、話し合っている段階です。そうすることで切れ目のない支援に繋げていきたいと思っています。
-------「阿波女あきんど大賞」の受賞をきっかけに多くの人に活動を知ってもらい、協力者が増えるといいですね。
川邊さん そうですね。活動エリアも広げていきたいと思っていて、2024年の夏から徳島市でも中高生向けの「居場所カフェ」というのを月に2回開いています。万代中央ふ頭の『Creer(クレエール)』さんを間借りさせていただいて、大学生のチームが主体となって運営しています。
-------サポートしてくれている学生はどういう人たちですか?
川邊さん 徳島大学や鳴門教育大学、あと徳島出身で神戸の大学に通っている子は行ったり来たりしながらサポートしてくれています。中には小中高時代に同じような経験をしていた人もいて、「こういう場所や機会があればよかった」と感じているため、すごく熱心に関わってくれています。
徳島で構築した支援モデルを全国へ
川邊さん 今後5年のビジョンになるんですが、徳島県全域に拠点を増やしていきたいと考えています。サポートしてくれる人がもう少し増えれば、オンラインの学び支援も県下全域に張り巡らせ、いろんな背景のある子どもたちにオンラインで機会や経験を届けられるような仕組みを作っていくことを目標としています。
そのためにも子どもたちが望む支援を把握するための調査から、もう一回やりたいと思っています。例えば子ども食堂も県内に100カ所ぐらいあるので、「どんなサポートがあれば、しんどい思いをしている子たちが減るのか?」なども改めてヒアリングさせていただきたい。子育て支援などに取り組む団体とも連携し、お互いにサポートできるような関係づくりができればいいなと思っています。
-------そうした繋りが出来れば、子どもたちも安心ですね。
川邊さん はい。関連団体みんなで連携して、支援活動が安定的に行えるようになることを目標にしています。都市部と地方では自治体の予算規模も違うと思いますが、貧困対策や不登校支援は全国どこでも同じ課題を感じているので、持続可能な形でサポートできる体制、特に人口3万人以下の自治体でどうやって子ども支援をやるのかというモデルを、5年の間に徳島県で作りたい。そして他の小さな自治体ともパートナーシップを組みながら全国に広げていきたい。それが当面の目標です。
-------お話いただき、ありがとうございました!
うみのこてらす
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